05 4月 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC) の遺伝子検査と治療の一部を、保険診療で受けられるようになりました。
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とは
同一家系内において、世代間で継承される卵巣がんや乳がんのことをいいます。
HBOCは、乳がんや卵巣がんの5-10%を占め、近年注目されています。
遺伝性乳がん卵巣がん症候群の特徴
〇女性でBRCA1 あるいはBRCA2の遺伝子変異がある場合、乳がん、や卵巣がん、その他卵管がんや腹膜がんになる可能性が高いです。
〇男性でこの遺伝子変異がある場合は、乳がんや前立腺がん、すい臓がんになる可能性が高いです。
DNAとは
人間の細胞の核には、大切な遺伝子構造を地図のように書き記したDNAが入っています。
BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子はそれぞれ13番染色体と17番染色体に存在します。
それぞれどちらかが病的バリアント(発癌リスクに関連する変異)を持っていればHBOCと診断されます。
BRCA遺伝子変異を持っていることの意味
・乳癌と卵巣癌の発症に関連があることがわかっています。
・だからといって、このBRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子をもつだけでは必ずしも乳癌や卵巣癌を発症するわけではありません。
・すなわち、生涯どちらの癌も発症しない人もいれば、両方の癌を発症することもあるし、どっちかの癌しか生じないひともいます。
- もともとの確立を上昇させるので、遺伝学的な確率に加えて環境因子なども要因となります。(喫煙など)
・発症のリスクはそれぞれ以下のように上昇することが報告されています。
http://hboc.jp/downloads/hboc_pamphlet_ver5_1.pdf
・遺伝子の変異は、次世代へ遺伝しますが、100%の遺伝ではありません。
・親から子へは50%の確率で遺伝します。(常染色体優性遺伝)
遺伝学的検査とは
- 遺伝子検査とは遺伝子の中から遺伝性のがんを起こすかも知れない変異を見つけ出すための検査です。遺伝子の変化が見つかった場合には、その変化ががんの発症と関連するものなのかどうかを判定します。
- 生活習慣等を変えても遺伝子が変異しているという情報は生涯変わりません。ただし、遺伝子変異の有無にかかわらず、他の環境因子で発がんリスクが上昇することもあります。
医療費
- BRCA1,BRCA2遺伝学的検査は、保険外(自費)診療で行われていましたが、場合によって保険適用となりました。
保険診療の場合、7割が保険で支払われると、自己負担は約6万円です。保険外診療で受ける場合、費用は医療機関によって異なるので、それぞれの医療機関でご確認ください。
BRCA1,BRCA2遺伝学的検査が保険適用となる場合
乳がんあるいは卵巣がんを発症していて、HBOCの可能性が疑われ、かつ下のいずれかにあてはまる場合はBRCA1,2遺伝学的検査が保険適用となります。
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- 45歳以下で乳がんと診断された
- 60歳以下でトリプルネガティブ(ER, PR, HER2陰性)の乳がんと診断された
- 片方の乳房に2つ以上の原発性乳がんを診断された
- 男性で乳がんと診断された
- 卵巣がん・卵管がん・腹膜がんと診断された
- 腫瘍組織によるがん遺伝子パネル検査の結果、BRCA1,2遺伝子の病的バリアントを持っている可能性がある場合
- 血縁者*に乳がんまたは卵巣がん発症者がいる
- ご本人が乳がん、卵巣がん、腹膜がんのいずれかと診断されていて、かつ血縁者がすでにBRCA1,2遺伝子に病的バリアントを持っていることがわかっている場合
血縁者の範囲:父母、兄弟姉妹、異母・異父の兄弟姉妹、子ども、おい・めい、父方あるいは母方のおじ・おば・祖父・祖母、大おじ・大おば、いとこ、孫など。
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遺伝カウンセリング
HBOCの遺伝学的検査の前に遺伝カウンセリングがだいじです。
先ずは、乳がんの既往がある方は乳腺外科、卵巣がんの既往のある方は婦人科にご相談いただき、HBOCが疑われる時は、遺伝カウンセラーのいる施設に紹介してもらいましょう。
検査結果が陽性の時の治療のオプション
現在最も有効な対策はRRSOであると考えられます。海外の報告ではBRCA変異保持者の30-70%がRRSOを受けています。
- リスク低減卵巣卵管切除術(RRSO)
事前の画像診断で卵巣、卵管にがんの診断がないと判断された状態で、卵巣がんや卵管がんのリスク低減のために両側の卵管と卵巣を切除する術式のこと。
卵巣がんは40歳ごろから発症率が上昇するため、50歳までに実施することが望ましいです。
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リスク低減乳房切除術(RRM)
事前の画像診断で乳がんにがんの診断がないと判断された状況で、乳がんのリスク低減のために乳房を切除する術式のこと。
RRMは乳がん発症リスクを9割以上低下させる。
乳がんは30歳ごろから発症率が上昇するため、40歳までに実施することが望ましいです。
曾原 雅子(産婦人科医) 参照:HBOCコンソーシアム小冊子